「私って馬の耳に念仏みたいなものやね」

昨日、「もう帰りたいんです」と言っていたケア滞在中のちよこさん。
今朝もいさどんの顔を見るなり、「いさどん、私。。。」と話し始めました。

ちよこさん:
ここにおってもどうにもなりません。

いさどん:
僕が思うのは、「ここにいてもどうにもなりません」と言っても、
行くところは結局娘さんのところになりますよね。
娘さんのところは普通の家庭だから、
いくら親子だといっても、いつもちよこさんのことばかり構っていられないし、
そればっかりやっていたら疲れて変になるかもしれません。

それが出来ないとなったら、ちよこさんは病院に行くしかありませんが、
病院に行くとしたら、閉じ込められた状態になるんですよ。

ちよこさん:
一度入院したことがあるからわかります。

いさどん:
病院ではこんなふうに付き合ってくれる人もいないだろうし、
「とりあえずここにいて下さい。具合が悪ければ薬を飲みましょう」ということです。

そうやって、キャッチボールしながら良くなっていこうということがない場所です。
薬が強くなればなるほどその人の人格は麻痺し、自分を忘れていくことになります。
生きていても自分を表現出来る環境がなければ、むなしい日々の繰り返しになります。

「ここにおってもどうにもなりません」とちよこさんが言うから、
僕は無理強いするつもりはないので、
「ここにいなかったらどうなるんだろう?」ということを今考えました。
ちよこさんのように悪く悪くものを考える癖とは違って、
当たり前にどうなっていくんだろうと考えました。

そうすると、松尾芭蕉の俳人ではないはいじん(廃人)になってしまうからね。
これははいじん違いだよ(笑)。

今、こうやって語りかけているのは、
ちよこさんの中にある正気の部分を引き出そうとしているからです。

ちよこさん:
でももう死にたいんです。

いさどん:
それは最終的には個人の自由ですが、
死んだらどうなるのかということをちよこさんは知っていますよね。
今だって、そういう考え方をしていると、
ネガティブな心が膨れ上がってしまいます。
死ぬとそれがピークの状態が続くことになります。
生きているからそれを改善することも出来ますが、
ピークの状態で死ぬとそれで止まってしまうんです。
それがずっとあり続けることになります。

今、ちよこさんは僕の話を頷きながら聞いていますよね。
それはあなたの中に冷静に聞こうとする部分と混乱している部分があって、
僕は今、ちよこさんの中の冷静に聞こうとしている部分に働きかけているから、
この会話が成り立っているんです。

今の状態が辛いというのはずっと聞いているからわかりますが、
代わってあげることは出来ません。
でも、理解はしています。
だから、そういうのは幻だとも言いません。
「そのままの状態でいいですよ」とも言いません。
そこを何とか越えていくためのお手伝いなら出来ます。

「薬を飲むのをやめなさい」とも言いません。
しかし、薬を飲んでも効かないのなら、
薬から離れて正常な心を引き出す作業をした方が良くなるんだと思います。
薬を飲んだら効くということなら、「それも良かったね」とも思います。
辛いままにしてはいけないから、薬も時には頼る必要があります。

でも、ここに来た時と比べたら大分進歩しましたよ。
色々なことに取り組むようになりました。

ちよこさん:
自分の癖がね。もっと楽観的であればいいのだけれど。

いさどん:
悪いふうに考えてしまうのが病気であるのなら、それは治したいですよね。
それが癖であったら、なおさら取りたいですよね。
僕はちよこさんを見ていると、傾向として二面性があり、
前向きで明るくどんどんアクセルを踏んでいくちよこさんと、
行きすぎてしまって自分を振り返り、
振り返りすぎてしまって進めなくなってしまうちよこさんがいると思っています。
行きすぎてしまうのも、先案じを行きすぎてしまい、
「ダメだ、ダメだ」と自分で決めてしまうちよこさんがいるんです。

出来れば、前者のちよこさんを育てたいです。

ちよこさん:
私もそうなりたいです。

いさどん:
でも、慎重なちよこさんも育てないといけないのですから、バランスですね。

ちょっと気になるのは、ちよこさんは薬を10年近く飲み続けてきたでしょ。
そうすると、薬じゃないとコントロール出来ないことになり、
ちよこさんの頭の中にそういう仕組みが出来てしまうんです。
何でも悪く捉えてしまったり、
「ダメだダメだ」という方向にしか行かない仕組みが頭の中に出来てしまうと、
心の問題を越えて機能障害になっていきます。

そうすると、今僕がこうやって
ちよこさんに語りかけている方法では治らなくなってしまいます。
だから、そこへ行ってしまう前にこうやって言葉かけをして呼び戻し、
ちよこさんのコントロールの中にちよこさんを戻しておきたいと思っています。
機能障害になると、うつ病みたいな段階ではなく、
例えば統合失調症の段階に入ってしまいます。

そうなると、回復するための時間とエネルギーは大変かかります。
今ちよこさんはそうやって「ダメだダメだ」と言いながら、こういう話も聞けていますよね。
それは、ちよこさんがまだ機能障害ではなく、
ちよこさんの心の癖が今の状態をつくっているということです。

今はちよこさんの正常な部分に語りかける作業が出来ると思って、その可能性を見ています。
あとは、ちよこさんの意志です。

ちよこさん:
それが問題ですよね。

いさどん:
ちよこさんの意志は僕の意志ではありませんから、そこはちよこさんにお願いしたい。
ぜひ冷静な部分を前に出して下さい。
でも、「ダメだ」ということに対して、「やりなさい」と強制することはしませんから。

ちよこさん:
早く楽になりたいんです。

いさどん:
その楽になる方法ですが、現状のままでは楽ではありませんよね。
楽になる方法として考えられることは二つあります。
今僕が語りかけていることを受け、コツコツと取り組んでいく。
そこに明るい自分をなるべくイメージして抜け出していくようにする。
その作業をするか、それともちよこさんが口癖のように言う「死にたいんですよ」ということを実行する。

ちよこさん:
でも、私死にたくないんですよ。

いさどん:
そうでしょ?だから、そういう言葉を言わないことが大切なんです。
どんなに辛くても、そういう言葉を言わない。
言葉の力は大きいですよ。

ちよこさん:
言霊ですからね。

いさどん:
わかっているじゃないですか(笑)。
自分の口から発したものが自分の未来を創るんです。
昨日僕が評価したのは、
僕の顔を見て「辛いんです」と言いかけてから、
「あっ」と止めて、「これが私の癖なんですよね」と言ったじゃないですか。

段階ですからね。
想いがあって口に出そうになったら止める。
そうやって自分をコントロールしていく。
それをやり続けると、想うという段階で気づくようになりますから、
そうしたら想いの段階で「こういうふうに想っているな」と気づき、止めることが出来ます。
そうやって、だんだん自分の中でその想いの種を封印していくと、そのうち想わなくなるものです。
想わなくなると種が機能しなくなって消えていきます。

今はそれこそ、種に芽が出て外からもよくわかるくらい育っている状態です。
そのうち実がなって収穫しないといけなくなりますよ。
芽が出て実がなって収穫するという段階になると、
その実が全部また種になって、また伸びて、
どんどん増えていくことになっていきますからね。

だから、自分の中で早く収穫して消化してしまうことが大切です。
「これはこういうことだから、もうやらない」という手法です。
ちよこさんは今まで随分育ててきて、種が大変多くなってきましたからね。

これは、ここにいてもどこにいても同じですよ。
それだったなら、ここにいてそれを回復するトレーニングをするのが賢明ですよね。

ちよこさんに必要なことは、
まず、自分が今どういう状態なのかを冷静に振り返って判断する。
今までどういうふうに生きてきて、今はどういう状態なのか。
そして今自分はどうしたらいいのか。
そういったことを冷静に考え、
自分一人で出来なければ、こうやって人に助けてもらう。
冷静な自分をコツコツと育てていけば、
どうしたらいいのかが自然に見え行動出来るようになり、正常な自分を取り戻していけるのです。
それが自分の中で完全に落ちたら、揺るぎのないものになります。

辛いことはそれを解決するために与えられているのですから、
それが自分に与えられたテーマだとしたら、
それを喜びに変えていくことが人生の目的であり、醍醐味でもあるのです。
ただ「辛い辛い」と生きているのではなく、
山が大きければ大きいほど喜びは大きいものです。
辛いことを喜びに変えていかないと、
それを与えられた本当の意味がわからないということになります。

そして、自分がそれを越え他人に伝えられるようになったら、人のために生きられます。
こういった人を「ブッダ」と呼び、尊い人になります。
だから、ちよこさんも尊い人になれるのです。

今ちよこさんは、自分の問題事を自分の中に閉じ込めてしまい
悩みにしているので、少しも楽にはなりません。
毎日そんな生活をしていたら、地獄を生きているようなものです。
まず健康になるだけでも、自分にとって喜びですよね。
その喜びを人のために活かそう、
自分の喜びを人のために活かせたら、徳積みになるんです。

私たちは、ちよこさんがそうなるためのお手伝いをしているんです。
それは、ちよこさんが健康になって生きるということだけではなく、
僕は世の中を良くしたいからこういったことをしているんです。

それが不可能だとしたら、ちよこさんはここに来ていないでしょう。
病院の隔離病棟へ行って、それこそ入退院をくり返すことになっていたかもしれません。
もっとひどくなると、自分で命を絶つようなことにもなります。
そういうことじゃないから、ここに来ているんですよね。
時間がかかったとしても、あきらめずに信じていけば大丈夫です。
あとは、ちよこさんの心次第です。

先程と比べて落ち着いてきていますよ。
「ダメだダメだ」という心があると落ち着かないのですが、
「そうだ、私は全部わかっているんだよね」という心になれば、落ち着いてくると思います。

ちよこさん:
わかっているんですけれど。。。

いさどん:
だから、またそうなってくる時に、
今度は自分が自分に言葉かけをしてあげるんです。
今は僕が言葉かけをしていますよね。
今度は自分が自分に言葉かけを出来るようになればいいんです。

ちよこさん:
私って、馬の耳に念仏みたいなものやね。

いさどん:
すごい!よくわかっていらっしゃる(笑)。
馬の耳に念仏なんてぴったりです。でも、馬よりましですよ。
こうやってキャッチボールが出来ていますし、ちよこさんは全部わかっているんですから。

ちよこさん:
わかりました。またしばらくやってみます。

いさどん:
「またしばらくやってみます」ということは、
「またしばらくしたらこうなります」ということを言っているようなものです。
そこはもうちょっと進歩して、
「わかりました。取り組みます」というふうになると、一歩先に行けます。

僕もちよこさんと話しているとすごく勉強になります。
人間は多かれ少なかれ、そういう要素を持っています。
ただ、ちよこさんはすごくいい例として、
極端に見せてくれているのだから、ありがたいと思っています(笑)。

ちよこさん:
なんで私はこんなふうに生まれてきたんでしょうね。
私も他の人のようだったらいいなと思うんです。

いさどん:
でも、それはわかりませんよ。
他の人になったら、また別の問題があるものです。
ちよこさんが他の人になるのではなく、
ちよこさんは今自分の人間性をわかっているのだから、
問題のあるところを卒業して、いい部分を伸ばせばいいだけのことです。
他の人を羨むのではなく、ただその作業をすればいいんです。
人はそのために生きているのですから。

問題事が発生すると、
「あっ、行きすぎたんだな」とちょうどいいところを知ることが出来ます。
ちょうどいいところを教えてもらって、人は正しく歩けるんです。
自然でも何でもそうですが、
そうやって自分の一番いい落としどころを探していくのが人生です。

ちよこさんは違うふうに生まれたかったんですよね。
そうしたら、今生まれ変わればいいんです。

ちよこさん:
もう、いつも話が長くなりますね。

いさどん:
毎回毎回同じことを話しているのだから、
そりゃ話は長くなりますし、時間はかかりますよ(笑)。
時間はかかっても、僕はこうやって付き合っています。
話していくと、ちよこさんはだんだん落ち着いてきて、
最後には笑えてくるちよこさんが表われてくると思っています。
いくら笑わそうと思っても、笑えない人もいますから。

ちよこさん:
ごめんなさいね。また繰り返しますけれど。

いさどん:
でも今日は、
「ごめんなさいね、また繰り返しますけれど」と予告しているということは、
何となく自分を既に掴んでいるということです。
以前はちよこさんの中にある混乱が次から次へと出てくる状態でしたが、
自分で客観的に「ああ、私はきっとまたこれを出すだろう」と捉えています。
これは、自分の中から湧いてくる混乱にただ翻弄されているのではなく、
それだけ自分を捉え出したということでいい傾向ですよ。

そうやってちょっとでもいいところを見つけていく。
それって前向きなことですよ。
今日の会話は今までで一番進歩しています。
話が少し前に進みましたから。

ちよこさん:
じゃあ、これで終わらせていただきます。

いさどん:
素晴らしい!
いつもは僕の方から「これで今日の話は終わりです」と言い出すのだけれど、
そちらから話を締めたのは初めてですよ。
今までは、「けど」「けど」と言って、
「私の話に付き合って下さい」と言っていた人が、
自分の方から話を締めたんですから、すごい進歩です。

ちよこさん:
また、よろしくお願いします。

いさどん:
ハハハハッ。わかりました(笑)。こちらこそよろしくお願いします。


「「私って馬の耳に念仏みたいなものやね」」への4件のフィードバック

  1. 「でも、私死にたくないんですよ。」って、
    ちよこさんの本音がでてくるようになって良かったなと思います。

  2. ちよこさん、だいすきだよ~~~っ。
    いさどん、だいすきだよ~~~~っ。
    ようこちゃん、だいすきだよ~~~~っ。
    順調、順調。

  3. こうしたらいいよ、こうしたら楽しいよって伝えるのもステキ。
    だけど、ありのままのことばを引き出し、ただただ、耳を傾けるのもイノチを活かすこと。
    それは、よせてはかえす波のように、宇宙の知恵に満ち、美しいものです。

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